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「感謝できる人は恵まれている」

こんにちは、紅龍堂書店(くりゅうどうしょてん)の久利生杏奈(くりゅうあんな)です。

上野千鶴子女史が、興味深いツイートをされていました。

新型コロナウイルスも勿論怖いのですが、「〇〇するべき(しない奴は悪)」といった論調が広がることを危惧しています。書籍やアートは批判精神から生まれるものも多いですから。多数派の声で少数派を封殺することは、例えどんなに「正当」な理由があったとしても、私は、躊躇います。
少なくとも今は。
――以前、旅人さんが仰っていました。

「優しさは想像力だ。
想像力がある人は恵まれてる。
きっと優しい親に育てられたか、優しい友達がいたんだろう。
優しい本を読む経済的余裕があるか、生まれついて優しかったんだろう。
私は違う」

旅人さんは、静かです。
とても個性的な方で、いきなり主語が抜け落ちたり(私からは想像もつかない「何か」を指して話したり)、私では、仰っている意味をとっさに理解しかねることも多々あります。
大家さんはたくさんの言葉で懇切丁寧に説明して下さりますが、旅人さんは語りません。無口で、どこか達観したような雰囲気のある方です。
あの日もバイクの整備をしながら、振り向きもせず、背中越しに言いました。

「感謝って、呪詛みたいだ」
「呪詛……ですか」
「例えば僕が、核戦争を想定して製造された自律制御型殺人インターフェースだとする」
「え?」
「兵士だとする」

ふと、旅人さんは黙りました。
そのまま、ぼーっと5秒ほど経過してから、ガバリと振り返りました。

「杏奈!? いつからいたの」
「ずっとお話していましたけど……」

誰と話しているつもりだったのでしょう?

「そ――そうだった。例えば私が、兵士だったとします。
杏奈は、戦いに行く私に、『ありがとう』と声をかけられますか?」

思わず息を呑みました。
旅人さんは、くしゃりと曖昧に苦笑しました。

「杏奈は優しいです。想像力があります。
私がもし兵士だったら、『戦ってくれてありがとう』と言われても嬉しくありません。重荷です。明日死ぬかもしれない。死にます。『私たちのために殉職してくれてありがとう』。ふざけるなと思います。死んでるから思えません。
戦わなくて済むなら戦いたくなんてないです。
感謝されて嬉しい人もいます。でも全員ではありません」

ふと、旅人さんは空を見上げました。

「感謝するにも知識が必要です。
相手が求めるものと、自分が求めることは根本的に違う。それを知っていなければできません。教養とは、自分と違う人間と話せるようになることです。一朝一夕には身に付きません。
自分以外の話者に恵まれなければ、身に付きようもありません。
感謝できる人は、スタートラインで恵まれています。
私には親がいません。
私は無いものを呪い続けて生きてきました。
生きる意味なんて、守りたい存在に恵まれている人だけが口にできる特権です。何も無い人間は、感謝することがとても難しい。だって、何に感謝すればいいと思いますか? 生きていること? ただ自分だけが? 家族も恋人も友人もいないのに、息を吸って吐いて寝て食べて排泄するルーチンを『感謝』できないことは不幸ですか?
命を尊いものだと思えない人間は、欠陥品ですか?」
「――――」
「そう、答えは『解らない』です。
解って欲しいのならば、何も持たない存在にも、付きっきりで寄り添って教える『べき』とも言いたくなる。愛を。優しさを。それをする気もない立場から、『感謝しろ』って、何に感謝すれば? って思います」

「ごめんなさい」

思わず謝りました。
何に対して謝っているのかも解らないまま。
旅人さんはかぶりを振りました。

「幸せでいることを責めているんじゃありません」
「解ってます」
「幸せだというのは、いいことです」
「はい」
「幸せを『当然』だと思わないで欲しいだけです」

それから、ハッとしたように旅人さんは、両手を顔の前に掲げてぶんぶんと振りました。「杏奈を責めてるんじゃないですよ!? 誰を責めてるつもりもありません。これは私の考えであって、一聴する価値もあるかどうか――」あんまりにも焦って振ったものですから、持っていた重たそうなスパナを足の上にゴツッと落としてしまいました。

「だっ、大丈夫ですか!?」

私は大慌てで駆け寄りました。
けれど旅人さんは、きょとんと不思議そうなお顔。
やがて、スパナが直撃した自分の足の甲をじっと見下ろし、

「!! わ、わー! 痛い痛い、大変だ! 手当てしてくる!」
「えっ、走れるんですか!?」

打撲の炎症はすぐに冷やしたほうがいいのですが、旅人さんは信じられない速度で駆け去って行きました……思い出しただけで痛くなります;
旅人さんは、こういうおっちょこちょいが多いので少し、心配です……

最後まで読んで頂いてありがとうございます。とっても嬉しいです。
きっとまた、元気で、遊びにいらしてくださいね。

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