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『グレタ たったひとりのストライキ』を読んで泣きました。

「友だちなんかいらない。友だちは子どもだし、子どもはみんな意地悪だから」

マレーナ&ベアタ・エルンマン,グレタ&スヴァンテ・トゥーンベリ,羽根由訳『グレタ たったひとりのストライキ』海と月社,2019,p.36

こんにちは、紅龍堂書店(くりゅうどうしょてん)の久利生杏奈(くりゅうあんな)です。

最初から完全無欠の主人公なんていないのですよね。
グレタ・トゥーンベリ、17歳。アスペルガー。世界を動かす気候活動家。今でこそ政治家も顔負けの風格を漂わせていますが、彼女の来歴を知ったときはあまりの凄絶さに言葉を失くしました。
授業で海洋プラスティックゴミの映像が流され、ショックのあまり泣き続けたこと。
突然、ハンバーガーが油ぎった肉の塊に見え、動物がミンチにされたのだと気づいて食べられなくなってしまったこと。
どんなに泣き叫んでも、学校を帰ることは教師が許さなかったこと。
食べ物を「不味い」とゴミ箱へ捨てることはどの生徒も許さていれるのに、「食べられない」という異変に怯えて傷つくことは、帰宅の理由として許可されなかったこと。
お母さんが焼いた菓子パンでさえ、ついには口にできなくなってしまったこと。
「お願いだから食べて! 食べなければ死んでしまうのよ!」と迫られても、悪魔のような唸り声をあげて、泣き叫んで拒否し続けるしかできなかったこと。

この本は、そうしたグレタさんの抗いがたい変化に、ご家族が必死に向き合ってきた記録です。
気候変動の話題は当然に出てきますが、正直、それ以上に壮絶なヒューマン・ドラマとして読みました。
物を食べられなくなって2ヵ月、10キロも体重が落ちて、バナナ3分の1に所要時間53分。ニョッキ5個に2時間10分という時間をかけて、「食べて」いく様は、凄絶という以上の語彙を見つけられません。
またグレタさんだけでなく、妹のベアタさんもADHDやアスペルガーの併存、音嫌悪症候群(ミソフォニア)といった神経精神医学上の珍しい症状があり、生きることと向き合うだけでも並大抵ではない努力を強いられています。

それでも世界に優しい人はいて、小さな奇跡がいくつも積み重なって、グレタさんたちは回復していく――そういう話であったことに、少なからぬ希望を感じています。
以下、備忘録は主にグレタさんのお話です。

まず、彼女を支えた先生。
教室に顔を出せなくなってしまったグレタさんに、週に2時間、図書室でこっそりと全教科を教えます。学校から、「あの子に関わったら解雇する」と脅されながらも。

「私はこれまで、才能があるのに繊細すぎる少女が精神的に壊れてしまう例を、たくさん見てきました。もうたくさんです」と先生は言った。
「私のほうが限界なんです」

マレーナ&ベアタ・エルンマン,グレタ&スヴァンテ・トゥーンベリ,羽根由訳『グレタ たったひとりのストライキ』海と月社,2019,p.34

次に、気候ストライキの話を聞いて、顔を輝かせた科学者たち。

「8月に新学期が始まったら、グレタは国会議事堂の前で学校ストライキをする予定なんです≪中略≫」
ケヴィンとイサクの顔が輝いた。まるで、これまで聞いたこともない朗報に接したように。
「その座り込みは、どれくらい続けるつもりかな?」とケヴィンが質問した。
「3週間」グレタが消え入りそうな声で言った。
「3週間⁉」とイサクが加わった。≪中略≫
「何人かの政治家に聞かせたいですね」とケヴィンがうれしそうに言った。

マレーナ&ベアタ・エルンマン,グレタ&スヴァンテ・トゥーンベリ,羽根由訳『グレタ たったひとりのストライキ』海と月社,2019,pp.151-152

すっかり子ども嫌いになっていたグレタさんの元に現れた、最初の同士。

何かを始めたひとりにもうひとりが加わった瞬間、それは運動になると言われている。
もしそうであれば、世界的な学校ストライキ運動は、グレタの学校ストライキ2日目の午前9時ごろに始まったことになる。
そのとき、音楽学校8年生のメイソンが現れ、グレタの隣に座ってもいいかと尋ねたのだ。グレタはうなずいた。

マレーナ&ベアタ・エルンマン,グレタ&スヴァンテ・トゥーンベリ,羽根由訳『グレタ たったひとりのストライキ』海と月社,2019,p.196

友だち。

グリーンピースのイヴァンが顔を出し、手にした小さな保存容器を見せながら言った。
「グレタ、これ食べない? ヌードルだよ。タイ料理。完璧なヴィーガン。食べるだろ?」
彼がその保存容器を差しだすと、グレタは身を乗りだし、腕をのばして受け取った。そして容器の蓋を開け、何度かにおいを嗅いだ。鼻で食べ物のスキャンをしているのだ。ちょっとだけ食べてみた。続いてもう一口。もちろん、誰も不思議に思わない。人に囲まれて地べたに座る子どもが完全菜食のパッタイを食べる、それのどこが変わってるの? グレタは食べつづけた。容器はほとんど空になりそうだった。

マレーナ&ベアタ・エルンマン,グレタ&スヴァンテ・トゥーンベリ,羽根由訳『グレタ たったひとりのストライキ』海と月社,2019,p.202

この「お友だちとごはんを食べるシーン」ではたまらず涙がこぼれました。ここまでの道のりがどれほど大変だったか、このページを読む段ではもう知っていますから。
一方で、彼女の洞察眼の鋭さも忘れてはいけません。
個人的に唸ったのは2016年11月9日(ドナルド・トランプ氏が当選した日)の言葉。

「気候問題は深刻だけど、唯一の救済策はドナルド・トランプが選挙に勝つことよ。そうすれば、人々はやっと状況のひどさに気づくでしょ。トランプのような頭のおかしい気候危機否定論者が選挙に勝ち、世界でもっとも影響力のある人物になったら、みんなようやく目を覚まし、恐怖のあまり大規模な抵抗運動を始めるはず。手遅れにならないうちに本当の変化を実現するには、それが必要」
≪中略≫
「もちろん、これはひどい出来事だけど、いつだってそうだった。クリントンもオバマも、これまでと同じことを続けただけ。トランプは目覚まし時計よ」

マレーナ&ベアタ・エルンマン,グレタ&スヴァンテ・トゥーンベリ,羽根由訳『グレタ たったひとりのストライキ』海と月社,2019,p.221

……耳の痛い話ですよね。日本の政治でも心当たりがあります。
また日本での心当たりと言えば、

「私たちには新たな非化石燃料が膨大に必要。それも、いますぐ。≪中略≫いちばん安くて速いベストの代替手段に投資する必要がある。それなのに、どうして建設に10年もかかるものに投資しなくちゃいけないの? 太陽光や風力を利用した発電所なら数ヵ月で完成するのに、どうして、どの会社も投資したくないほど費用のかかるものに投資しなくちゃいけないの? 太陽光や風力ならずっと安いし、しかも分単位でコストが下がっている。全然リスクがないものがほかにあるのに、どうしてリスクが高いものに投資しなくちゃならないんだろう? 既存の核廃棄物の最終処分の問題だって解決してないのに。それに、すべての化石燃料を原子力に置き換えるとしたら、今日から毎日ひとつずつ原子力発電所を完成しなくちゃ間に合わない。建設に必要なエンジニアを教育するだけでも10年単位の年月が必要なのに。だから原子力は実現可能な代替手段じゃない。そんなことはとっくにわかってる。なのに、どうしてその話ばかりする人たちがいるの? 私、ほんとうに怖い。政治家って、こんなこともわからないほどに馬鹿なの? それとも、時間を無駄にしたいの? どっちがひどいことなのかわからないけど」

マレーナ&ベアタ・エルンマン,グレタ&スヴァンテ・トゥーンベリ,羽根由訳『グレタ たったひとりのストライキ』海と月社,2019,p.227

……言うまでもなく原子力発電の話ですが、これに対するスヴァンテ氏(グレタさんのお父さん)の返事がまた痛いところを突いています。

「原子力の問題は、多くの人たちにとって、すごく大きなシンボルなんだろうね」

マレーナ&ベアタ・エルンマン,グレタ&スヴァンテ・トゥーンベリ,羽根由訳『グレタ たったひとりのストライキ』海と月社,2019,p.227

気候危機の話をしたくなければ原子力問題の話を出せばいい。
そうすればそこで議論が止まるから。
……どんなことでもそうですが、議論のための議論になってはいけませんよね。
何より忘れてはいけないのは、グレタさんを筆頭に気候危機の影響をもっとも受ける子どもたちは、選挙権がないということです。
一番被害を受けるのに、意見を言える機会がないのです。
だから、大人……というほど私も成熟してはいませんが、それでも有権者として、できることをしていきたいです。
まずは、危機を危機として捉えるところから。

もっと買え。
もっと旅行しろ。
もっと食べろ。
もっともっと。

マレーナ&ベアタ・エルンマン,グレタ&スヴァンテ・トゥーンベリ,羽根由訳『グレタ たったひとりのストライキ』海と月社,2019,p.229

すでに十分すぎるほど事足りている私たちが、あらゆる状況でもっとひどくなるように奨励されていることを疑うこと。
疑うのって、しんどいですけれどね。

私はグレタさんのように記憶力がよくないので、こちらに書き留めさせて頂きました。
読書というのは所詮は趣味ですから、「絶対に読まなければいけない本」なんて存在しません。それでも、もしも21世紀の今日、「全人類に手に取って欲しい一冊を挙げろ」と言われたら、私はこの本を挙げます。
人類の絶滅は、私たちが思っているよりもずっと早いかもしれません。
100年後、あなたのお子さんや、お孫さんは、もう生きられないかもしれません。それくらい深刻だと、まずは事実を知る必要があります。日本は、あらゆる情報が英語から翻訳されるまで入って来ませんから、情報格差ではほぼ最下層にいます。

私は、牛肉を食べなくなって久しいです。
2013年から空を飛んでいません。

重たい話でしたのに、最後まで読んで頂いてありがとうございます。
あなたと、あなたの大切な人の明日が、少しでも明るくなりますように。
きっとまた、遊びにいらしてくださいね。


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