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種苗法可決を受けて

こんにちは、紅龍堂書店(くりゅうどうしょてん)の久利生杏奈(くりゅうあんな)です。

誰かに会いたいと思うとき、その人は生きていないことが多いです。……なんて書くと心配をかけてしまいそうですね。大丈夫ですよ、ふふ。
子どもの頃は、よく風の神様とお話をしていました。
信仰、というほど大袈裟なものでなくても、そこここに感じる自然の息吹に話しかけずにいられなかったのは、友達が少なかったからかもしれません。それか人よりも少しだけ、家庭環境が複雑だったからかも。
目に見えないものにずっと支えられて生きてきて、それは今もあまり変わりません。
辛いことがあったとき、最初に相談しようと思うのはいつも家族や友人ではなくて、本の中の登場人物だったり、著者だったり、それもずっと昔に亡くなっている方だったり、誰かの墓標だったり、どこかの企業理念だったり、遠い異国の地で語られた演説だったり、風の音に紛れる木々のさざめきだったり。
そのことを、初めて友達――生きた人間の同級生――に話したとき、「なにそれ」と声を荒げて怒られました。寂しすぎると。ここに生きて存在している友人をどうして頼ってくれないのかと。友人と認識していないのかと。
そんなつもりは全くなかったから困惑しました。私はただ、誰かが「いる」と信じられる空間に身を置くことがとても大切な時間だったのです。
その時間を、「一人で」考え込むとは表現したくなかったのです。

最近、このブログとのちょうどいい向き合い方がやっと分かってきました。抱えきれない感情をそっと置いていくのがいいみたいです。いつかどこかで、優しい誰かが、私から切り離された言葉に思いがけず触れる瞬間を思うと、少しだけくすりとします。悪戯みたいなものかもしれません。
触れる誰かは、未来の私かもしれません。
未来の私だったら泣いてしまいそうですが。思い出して。

種苗法の可決、予想していたからといってショックを受けないわけではなくて。といって絶望するほどの努力をしてきたわけでもなくて。父母や親戚の説得だけで手一杯で、それ以上の労力をかけられたかと言えば、私は自分の〆切を優先して。
そうしたのは別に「無駄だから」と割り切っていたわけですらなくて、ただ、心の奥底で冷えて固まっていた感情があったからだと気づいたとき、ちょっと、気が滅入りました。
もう、そろそろこの感情も持つのが辛いから、置いていきます。
ごめんなさい。

私、心のどこかで、みんな一度痛い目を見ればいいって思ってたんです。

農家ってバカにされるんです。
まず農家の娘だと言うと、真っ先に頭が悪いと思われるんですよね。
そしてそれを否定することもできなくて。自分が決して賢い人間ではないなんていうことは嫌というほど知っていますし。
今、それこそ自家採種をしているようなご高齢の農家の先達は、理念があって命を繋いできた方たちですが、でもそのもう次の世代――私の父母くらいになると、二代目農家ですから、強いこだわりを継いでいるとも限りません。狭い田舎の実感として正直に書いてしまうと、二代目農家って、他にやりたいことがあったわけでもなくて、漫然と土地があったから継いだ長男が多いのです(勿論、そうでない方もいます)
だからお金になるなら簡単に農地を手離すし、楽にたくさん売る方法があるのならば外国産の種だって使うし。
多少、危険でも。
だって食べるのは自分たちではないですから。
日頃散々、農家のことを「肉体労働」だと馬鹿にしていて、舌だって添加物まみれで麻痺していてどうせろくに味も分からない消費者に、良いものを差し出す理由がない。種苗交換会(これも今後は行われるか解りませんが。今日の法案通過で共謀罪が適用されるかもしれませんし)で育種家の方々が、
「F1のカブなんて不味くて食えたもんじゃない」
と仰っていたというのは野口種苗さんの印象的なエピソードですが、F1のカブって元々、豚が食べる家畜飼料用の遺伝子を掛け合わせたものなんですよね。
でもたぶん、この一行を読んでいる方の大半はそうした事実を知りませんよね。

知らせていないことが農家の「本音」なのではと、薄々と私は思っています。

そんな中で種苗法改正案を見たとき、真っ先に浮かんだ感想は「来るべくして来た」が正直なところです。
一度、本当に食料が手に入らなくなって、困らなければ解らないのだろうなって。

つい先日、NIKEのCMが炎上して、「日本に差別がない」という言葉の多さに疲れ果てると同時に、驚きも無くただただ心が冷えたのは、他でもない農家が差別に遭い続けてきたからです。
まず、「農家は陰湿」「泥臭い」というイメージ。直球の差別表現ですしやめて欲しかったです。ずっと。
大人だけならまだ諦めもつくんです。
悲しいのは、子どもの差別に触れたときです。
特に多いのは受験を控えた高校生。彼彼女らが親からなんといって勉強をさせられているかご存知ですか?
「農家みたいな職業に就かなくていいように勉強しなさい」
農家みたいな職業。どういう意味でしょうか。
食料自給率が8%の国で、凄いことを言うなって、思います。
他にも、……最近ですと話題の『天稲のサクナヒメ』。流行って話題になること自体は、良いことなのかもしれませんが、それに伴って「近所付き合いが悪い奴は用水路を止める」とか、部落虐めのような農家のエピソードを面白おかしくネタとして拡散していくこと、笑えませんし心臓がざわざわします。

……とか、私が気にしすぎなのかなって、たまに悲しくなります。

農家の娘なんて、なんにも気づかないふりをして、明るく穏やかに微笑んでいたらそれが一番波風を立てない方法なのだろうなって、誰より自分自身が諦めたように思っていることも苦しいですし。
その苦しさも、もう嫌なので、ここへ置いていきます。
人に優しくありたいです。
どんなに難しくても。

最後まで読んで頂いてありがとうございます。
きっとまた、遊びにいらしてくださいね。


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